【ミニシュナ日記12/27】忘却への闘争
犬は5秒前のことを忘れてしまう動物らしい。
だからいつそれに気が付いたのかを覚えているはずもなかった。
はじめはそれについて思案することもなかったのだが、あるとき自分自身が忘れ去られていくことに一抹の不安を覚えた。
何とかそれを防ぐ手立てはないものかと犬知恵を働かせてみたところ、どうやら毎日の記録をつけることがよさそうであった。一足早く思春期を迎えた少女のように。
そこで僕はいくつかのことに挑戦してみることにした。
まず、毎日写真を撮った(正確に言えば撮ってもらうのだが)。
それからその画像をInstagramにアップした。写真を残すという点において
それは非常に便利であった。あの漱石に出てくる名無しの猫にはできないことだ。今はそういう時代なのである。人間がよくて犬がダメだといわれる筋合いもない。
さて、これらは1か月前に始めたものだった。
過去の自分を振り返るというのはなかなか興味深いものである。一か月前の自分の画像はなるほど昔の自分だとも思うが、一方でまるで違う生物のようにも思えた。昔住んでいた町に戻ってきたときの安堵と微かな違和感に似ている。
しかし、結局のところそこに写っているのは紛れもなく自分の姿であった。こうして自分の存在を残すのも悪くないと思った。
それからもう一つ収穫があった。
SNSの「つながり」である。
僕はただここに「ある」存在で、それ以上でもそれ以下でもない。ところがそれ自体には浮遊性があり、複雑な情報網を通って様々なところに出没する。つまり画像と共に僕の存在が不特定のスマートフォン上に表示され、認知されるのである。不思議なきぶんであった。
面白いものを人間は作る。
ならば僕はそれに乗っかり、その楽しみを人間と共に享受してやろう。そうして僕は記憶の忘却に抗う存在になってやりたい。